私は母と犬と平屋に暮らしている。
去年の夏のことだ。母が急病で県外の病院に入院することになり、母の父、つまり私の祖父が私の面倒を見るためにやってきた。
母の実家は「出る」家だと聞いている。
その影響なのか、母は霊感が強く、霊現象に関してはかなり敏感だ。
母の入院中、私は一人でリビングの横にある和室を使って、遅くまで勉強する日々を送っていた。
その日も、いつものように勉強をしていた。
一通りやることを済ませ、お風呂に入るため、廊下の突き当たりにある風呂場に向かった。
そのとき、風呂場の左側にある物置の扉が開いていることに気がついた。
ふと目を向けると、そこに見えたのだ。
まるでモノクロ写真のように、体は真っ黒なのに、顔の部分だけが白く浮かび上がっている人影を。
その人は正面を向いていたわけではなく、私からは横顔しか見えなかった。
だが、霊感のない私でもはっきりとわかった。この世の人ではない、と。
その日は、すぐにお風呂を済ませて早く寝た。
しかし、次の日から異変が起き始めた。
夜、勉強をしていると、突然パチパチと音がするようになった。
部活やテストで疲れていた私は、あの人影を見てしまったことなど頭になく、その不可解な音も家鳴りだと思っていた。
だが、次の日もその次の日も、同じような音が鳴り続けた。
そんな不可解な現象が続いていたある夜のこと。
突然、リビングの方の窓からコンコンとノック音が聞こえてきた。
不審者だったら嫌だと思い、息を潜めていると、今度は私がいた和室の方の窓がコンコンとノックされた。
えっ、と思って窓の方を向いた瞬間、ガタガタガタッと和室だけが、まるで地震が起きたかのように揺れ始めた。
恐怖に襲われ、私はリビングへと逃げ込んだ。
しかし、揺れはすぐに止んだ。
地震だったのだろうか。
確かめるためにテレビをつけてみたが、そのような情報はない。
怖くなった私は、携帯でも調べてみたが、やはり地震の情報は見当たらなかった。
それからは、外から子供の声がしたり、物置からドンッと何かが落ちるような音が聞こえたり、女の人の声が聞こえたりと、現象は増えていくばかりだった。
睡眠もなかなか取れず、体調も崩しやすくなっていた。
そんなある日、祖父が一度自宅に戻らなければならないということで、姉が代わりに来てくれることになった。
私には年の離れた姉と兄がいて、いつも私のことを気にかけてくれていたのだ。
姉がやってきたのは、夜の10時過ぎだった。
私は、今までの現象を全て姉に話し、もう無理だと訴えた。
姉は、兄にも相談してみるから、一緒にお祓いに行こうと言ってくれた。
ほっとして、もう大丈夫だと思っていたその時、突然、普段母と一緒に寝ている寝室にある目覚まし時計が鳴り始めた。
その目覚まし時計はデジタル時計。
アラームは時間を設定して、その時間に鳴るようにセットしないと鳴らないはずだった。
しかも、母が入院していて不在の間は、アラームの設定も切ってあった。
背筋が凍るのを感じた私は、一人でそれを止めに行くのが怖くて、姉を引き連れて寝室へと向かった。
その夜は、寝室ではなく別の部屋で眠ることにした。
次の日、兄から連絡があり、少し離れた神社でお祓いをしてもらうことが決まった。
安堵感に包まれながら学校へ向かったが、階段を登っていた時、突然誰かが私の服の裾を引っ張っ
だ。踏み外しそうになったが、咄嗟に手すりを掴んでなんとか踏みとどまった。
友達の仕業だと思い、後ろを振り返ったが、そこには誰の姿もなかった。
もう限界だった。その場で兄に連絡を取り、すぐにでもお祓いに行きたいと頼み込んだ。
兄は予定を調整し、週末に行けるように手配してくれた。
週末、お祓いに訪れた私を見て、和尚さんが淡々とした口調で「居ますね」と言ったのを覚えている。
お祓いを受け、塩とお守りをもらって家路についた。
お祓いの後は、すごく気持ちが楽で、体も軽くなった気がした。
その後、母も退院し、家での怪奇現象もぴたりと止んだ。
以降は充実した日々を送れるようになった。
ただ、懸念点が1つだけある。
あれから一年が経った今、ふと覚える違和感。
帰宅途中の私の後ろを、ヒタヒタとついてくる気配。
振り返っても誰もいないため、気のせいだと思いこむようにしているが。
あれは一体、何なのだろうか。
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