私の祖母は、かつて大きな病院で清掃の仕事をしていたそうだ。
その病院は朝一番から人が沢山訪れるため、清掃は夜中4時頃から朝方7時頃にかけて一気に済ませるのが常だったという。
ある日、祖母はいつものように清掃のため夜中3時30分ごろ病院に到着した。
少し早く着いたので、真っ暗な待合室でタバコを吸っていた。
ぼんやりとタバコの煙を眺めていると、突然、待合室の扉がゆっくりと開き始めた。
そういう”モノ”が出るという噂は耳にしていたが、全く信じていなかった祖母は、身を固くして扉を見つめた。
そこには、明らかにこの世のものではない若い女が立っていた。
片目が潰れ、頭が削れたように陥没し、首はあらぬ方向に曲がっている。
その女は祖母に向かって、カスカスで聞き取りにくい声で「タバコ、1本くれませんか?」と言った。
祖母が恐る恐るタバコとライターを差し出すと、女はタバコを加え、火をつけようとした。
その時、再び扉が勢いよく開き、看護師が飛び込んできた。
看護師は「○○さん!何してるんですか!勝手に歩かないでください!」と叫ぶと、その血だらけの女性を担ぐようにして連れ去っていった。
後に聞いた話では、その血まみれの女性は、夜間に交通事故に遭った急患だったそうだ。
そして、その日の明け方、霊安室に運ばれるその女性の姿を、祖母は目にしたという。
祖母が言っていたことを、私は今でも忘れられない。
「実際、死ぬほどの傷を負っていると、きっと痛みすら感じないんだろうね」
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