ある動画配信者の話
その配信者は
某動画サイトで
そこそこの
知名度があり
少数ではあるんですが
結構コアなファンも
いたんですよ
中には他のSNSも
全部フォローしていて
定期的に応援のDMや
嬉しいコメントを
送ってくる人も
何人かいたんですね
彼は本業も忙しく
すべてのDMに
返信することは
できなかったんですが
そういうDMを
見ること自体は
日々の楽しみの1つに
なっていたんです
ただ彼が受け取る
DMの中に
違う意味で気になる
ものがあったんですよ
DMというよりも
アカウントで
なぜか文字化けした
アカウント名で
投稿はひとつも
ありません
そしてその文字化け
アカウントからも
不定期にDMが送られて
くるんですね
ただそれが
おかしいんですよ
毎回、単語しか
送られてこないんです
ある時は「こうすい」
ある時は「じゅうでんき」
ある時は「こんびに」
という感じで
ただ1つの単語だけが
脈絡もなく
ポンッと送られて
来るんです
最初はどういう意味か
真剣に考えて
いたんですけど
日が経つにつれて
DMをメモ代わりか
そういう何かに
使ってるだけ
なんだろうな、と
思うように
なってたんですね
そしてそのDMが
送られるように
なってから
3ヵ月ほど
経ったある夜
仕事が終わって
車に乗った瞬間
例のアカウントから
DMが届いたんです
またこいつか
と思いながら
DMの内容を確認すると
「赤い車」
とだけ書いて
あるんですよ
その頃には
もう慣れていて
すぐに画面を
閉じようとした
その時
またポンッと
DMが届いたんです
同じアカウントから
このアカウントからは
何度もDMが
送られていますが
同じ日に
ましてやこんな
短時間の間に
連続してDMが
送られたのは初めてです
そこには
「軽四」
とだけ書いて
あります
何で今日は
連続で2通も
しかも2通とも
車のこととか
どういうメモだよw
と少しニヤリと
しながら
スマホ画面を
消した瞬間
…ん?
彼の頭の中に
妙な違和感が
生まれたんですよ
なんだ、この違和感…
と、数秒の間
ハンドルを前に
考えていたんですね
そしてハッと
あることに気づいた
次の瞬間
【ピロン】
また、DMが
届きました
同じアカウント
からです
まさか…
と思いながら
スマホを開き
届いたDMに
目を通した瞬間
背筋が凍りました
そこには
やはり1単語だけ
「○○○○」
とだけ書いて
あるんです
それは今までと
何ら変わりません
おかしいのは
ただ一点
そこに書いてあるのは
彼の車の
車種なんですよ
そしてさらに
彼の乗っている車は
赤い軽四です
彼は配信者では
あるんですが
身バレのリスクも
よく知っているので
自分の車を
SNSなどに
載せた覚えは
一度もありません
思わず彼は
バッと辺りを
見回しました
車を停めて
いるのは
人通りの少ない
道路沿いの
パーキングで
辺りに不審な人は
見当たりません
彼は心臓を
バクバクさせながら
車をパーキングから出し
大急ぎで自宅へと
向かいました
結論からいうと
その日は無事に
家にたどり着き
翌日も
その次の日も
結局1週間経っても
特に変わった
出来事は
ありませんでした
ただ例のDMの
様子が
少しおかしく
なっていたんですよ
それまでは
単語だけ送られて
きていたんですが
あの日を境に
「やっt」
「きetようよ」
「みつket」
みたいに
打ち損じのような
文章が
送られて来るように
なったんです
「kwって?」
という疑問文も
送られてきていて
日常生活に支障は
ないといえど
さすがの彼も
精神的に
参ってきたんですよ
そして彼は
視聴者やフォロワーに
何も言うことなく
配信活動を
一旦休止することに
したんです
突然、活動を
止めたことで
彼のことを
心配するDMが
結構な数
来ていました
それらのDMには
すべて目を通し
嬉しいような
申し訳ないような
でもやっぱり
温かい気持ちに
なったのは
間違いないんですが
その中に
紛れるように
やはり例の
アカウントからは
「おそろしい」
「ずっとまってた」
「もうすぐ」
というDMが
届いているんです
しかも少しずつ
意味のある言葉に
変わってきて
いるんですよ
もうここまで
来ると
恐怖の方が勝って
ついに彼は
SNSを見ることも
辞めて
しまったんですね
そして活動停止から
2ヵ月が経ち
結局、彼の周りで
おかしな事が
起こるわけでもなく
平穏な日々を
過ごしていました
あのDMに対する
恐怖感も
すっかり薄れていて
その頃には
ただの嫌がらせ
だったんじゃないか
車のことも
ライブ配信とかで
うっかり喋って
しまっただけだろう
と、楽観的に
考えられるように
なっていたんですね
フォロワーからの
DMも貯まっていて
読みたいと
思っていましたし
自宅でゆっくり
できる時間を見つけて
2ヶ月ぶりに
SNSを開いたんです
200件ほど
貯まっていたDMは
ほとんどが
心配する声や
活動再開を願う
嬉しいメッセージで
すべてに目を
通しながら
感慨深い思いに
ふけっていました
しかし想像通り
というか
やっぱりというか
その中に
あったんですね
例のDMが
しかも60通近く
あるんですよ
パッと流し見
してみると
どうやら
活動休止してから
毎日のようにDMを
送っていた
ようなんです
彼は恐怖しました
DMの内容は
日を追うごとに
「いよいよですね」
「今日は晴れです」
「新しいスマホで
OKですか?」
と、意味は
分からないんですが
ちゃんとした文章に
なってきているんです
それだけなら
よかったんですが
彼が恐怖したのは
そこじゃなかった
んですね
ここ1週間の
DMには
彼がよく行く
スーパーの名前
取引先の社名
卒業した高校名
極めつけは
彼自身の本名と
いう具合に
彼のプライベートに
関する情報が
怒涛のように
送られているんです
なんだ、これ…
あまりのことに
スマホを持ったまま
呆然として
しばらく身動きが
取れませんでした
これはさすがに
おかしい
というかマズイ
嫌がらせにしても
度が過ぎている
恐怖を通り越して
身の危険を
感じてきました
手と唇が震え
全身に鳥肌が
立っています
警察に連絡を…
そう思い
震える手でSNSを
閉じようとした
その時
【ピロン】
DMが届きました
開くまでも
ありません
今、見ていたDMの下に
新しくメッセージが
追加されたんです
「23時に○○公園で」
それは間違いなく
彼の自宅近く
徒歩3分ほどにある
公園の名前です
まさか住所まで
知っているのか…?
いや、それよりも
このDMは…
彼はその画面を
凝視しながら
数分間
数時間
その場で
考えました
もしかしたら
本当にただの
悪戯かもしれません
友人の度が過ぎた
ドッキリかもしれません
ですが何故か
彼の頭では
それ以外の何かを
予感していました
19時、20時、
21時、22時…
そして22時40分を
過ぎた頃
彼は意を決して
その場を立ち上がり
玄関に向かって歩き
靴を履き
スマホだけを持って
玄関のドアを
開けました
・
結論からいうと
その日は無事に
彼の家にたどり着き
翌日も
その次の日も
結局1週間経っても
特に変わった
出来事は
ありませんでした
まるで何事も
なかったかのように
配信活動を再開
していますし
今、こうして
みなさんの前で
話せるように
なりました
もうDMすることも
ありません
新しいスマホを
買う必要も
なくなりました
本当に
ありがとうございました
コメント(初回時のみ、管理人チェックが入ります)