奇妙な日常– category –
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【奇妙な日常】赤ちゃんの泣き声がする校内放送
「いらっしゃいませー。愛須さん、今日は時間どおりだね」 いつものように朗らかに迎える“ひさ”の声が、ガラス張りのドア越しに外まで響いている。店内は昼下がりの柔らかな光に包まれ、観葉植物の葉がゆらゆらと揺れながら、落ち着いた雰囲気を醸し出して... -
【奇妙な日常】不思議な猫に招かれて
「ねえ、タオさん、朝からずいぶん忙しそうじゃない? 何かあったの?」 社務所の縁側に座って爪の土を落としながら、しじみが声をかける。周りはまだ淡い霧が漂う朧(おぼろ)区の境内。山の空気がひんやりして気持ちいいが、鳥の声は少し頼りなく響いてい... -
【奇妙な日常】広がる板木地区の噂
「今日は本当にいい天気だね。やっぱり霞丘の青空は特別だわ。」りみは、街の中心にある駅前広場で大きく伸びをしながら言った。どこから見ても人懐っこく朗らかな笑顔。彼女は観光ガイドとしての仕事がオフの日でも、明るさは変わらない。 「……ああ、そう... -
【奇妙な日常】袋小路への招待
川沿いを歩きながら、瀬田はやけに静かな水面を眺めていた。いつもは釣り人や散歩の人でそこそこ賑わうはずなのに、その日は妙に人影が少ない。じっとしていると背後で足音がして、かすかな息づかいまでもが耳に届く。振り向くと誰もいない。そうして三回... -
【奇妙な日常】謎のバイトを撮影した配信者との出会い
ここが冥ヶ崎市なのか、それとももっと別のどこかなのか、あまりはっきり区別できないまま、私は奇妙な話を聞かされることになった。Mというホラー系YouTuberが、ある噂を追ってこの街に来たのはつい先日のことだと聞く。その噂というのが、深夜の路地を黙... -
【奇妙な日常】深夜の居酒屋にて、2人のITエンジニア
しょうやはコップを傾けながら、まぶたを半分だけ開けていた。いつもの筋トレのあとらしく、腕は微妙に震えているが、顔にはどこか楽しげな笑みを湛えている。彼は居酒屋のざわめきに耳を澄ましながら、自分のスマホに走る光を何度も見返していた。机の下... -
【奇妙な日常】朧の門が開くとき
そろそろ霧が厚みを増し始める頃合いだった。何の前触れもなく、霞んだ街灯がぼんやりと滲んで見える朧区の参道を、もてぃすは一人歩いていた。配信の下見という名目だが、その実、彼自身がこの夜の雰囲気を味わいたいがための散策に近い。小さなワンルー... -
【奇妙な日常】誰も気づけぬ喪失の儀式
そろそろ夏も終わりを告げる頃の朧区では、夜になれば霧が濃く立ちこめ、夜道を行き交う人影もかすんで見えるときがある。 その霧の奥には得体の知れぬものが潜んでいる――子供じみた噂を大人たちは鼻で笑うが、ごく稀に、その噂が現実味を帯びる瞬間がある... -
【奇妙な日常】歪んだ音色と霧の市
しょうやは霧の朝に筋トレを済ませたあと、何気なくSNSを眺めながら「冥ヶ崎観光協会主催のフリーマーケット」の告知を見つけた。会場は霞丘区の広場に設営されるらしく、出店者も一般人や地元ショップが入り乱れるらしい。ワクワクしながら現地に向かうと... -
【奇妙な日常】霧に誘われた二人
あの夜、霞丘区の外れを歩いていたMAKIは、どうしても薄ら寒い感じがして足を止めた。月の光に溶けそうな霧が足元を覆い、視界の端に小さな人影がちらつく。思い込みかもしれない、と自分に言い聞かせたところで、その人影がMAKIの裾を軽く引っぱった。見... -
【奇妙な日常】朧の霧を視る者たち
朧区を覆う夜霧は、その晩にかぎって妙に薄かった。にもかかわらず、空気の湿り気が肌に張りつくように重く、誰もが小声でしか会話できない。になは神社の石段を掃き清めたあと、じっと参道の向こうを眺めていた。足元に、猫か何かが動いているような気配... -
【奇妙な日常】知らない人の葬式
雨の降る午後、町の集会所に集まる人々はみな妙な顔をしていた。ある住民の葬式だというのに、遺影が見覚えのない人物だったのだ。祭壇の上には、見慣れた名前とはまったく別の人間の写真が鎮座している。誰がどう見ても赤の他人だ。それでも式は粛々と進...
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