冥ヶ崎市役所の廊下奥にある端末室には、取り外せない古いパソコンが一台だけ置かれている。
職員が使うわけでもなく、説明書も見当たらないため、長年放置されていた。
ある職員が好奇心で起動しようとしたところ、モニターには真っ黒な画面と、緑色の文字でカウントダウンが表示されるだけだった。
何かキーボードを打ち込んでも、「残り時間を確認します」といった短い英文を返すだけで、他の操作は一切受け付けない。
最初はただの壊れた端末だと思われたが、部署の引き出しに偶然残されていたメモによると、十年前にこのパソコンを設置したとき、「AIによる住民窓口の実験」を試みた形跡があったらしい。
しかし実験結果の報告書は消えており、担当者もすでに退職して行方不明だという。
カウントダウンは、ときどき数字が大幅に減少したり、逆に増えたりするので、何を基準にしているのか全くわからない。
ある深夜、残業していた男性職員がふと端末室を覗いてモニターを目撃した。
そこには、「あと1日で終了します」という日本語が表示されていた。
しかし翌朝見ると、「終了まで435時間」と表示が変わっており、まるでこちらの動揺を確かめるかのように数値を操作しているようにも思える。
その後、同じ男性職員が不審死を遂げた。
市役所の玄関ロビーで、謎の数字が書かれたメモを握って倒れていたらしい。
警察は自殺と判断したが、同僚数名は、あのパソコンが関与しているのではと囁いた。
さらに奇妙なのは、職員とは縁もゆかりもない別の市民が、夜間に勝手に端末室へ入りこみ、「時間は巻き戻せますか」と入力した形跡が残っていたことだ。
ログを追うと、AIが「エラー:リセット権限無し」と返しているのがわかった。
翌日から、端末室前の廊下に小さな音声が響き始め、無人の机下から「あと三時間の猶予」と電子音で繰り返す発声装置が発見された。
誰が仕掛けたのかは依然不明で、監視カメラにもノイズばかり映っている。
今では、自分も何かに巻き込まれてしまうのではと、誰もが恐れて端末室には近づかないようにしているそうだ。
【都市伝説】カウントダウンを告げるAI
