靴を作る妖精プレラの伝承は、霧が濃い日の不気味な風景とともに語られることが多い。
道端に片方だけ転がっている靴があれば、それはプレラがわざと落とした方靴だという。
残りの片方は異界に隠され、二つが合わさることはめったにない。
だからこそ、もしその方靴を拾ってしまえば、プレラの世界に繋がってしまうとも言われる。
目撃者たちは皆、拾った瞬間に霧の色味が変わり、遠くから小さな足音が聞こえたと証言するが、それ以上の言葉は濁される。
ある男は興味本位で方靴を持ち帰ったが、その夜から家中で足音が響き始め、朝になると靴が消えていた。
代わりにドアの前に片方だけの小さな木製靴が置かれていて、そこには奇妙な文字が刻まれていたらしい。
別の女性は、散歩中に方靴を見つけて踏みつけようとしたが、まるで体が動かなくなり、その隙に靴が霧へ溶け込んだ、と震えながら語っている。
彼女の足元には細かな靴跡が幾重にも広がっていたそうだ。
どうやらプレラは姿を現さず、落とした靴だけを通して人間の世界をうかがっている。
もしそれが“気に入った獲物”を見つければ、方靴をきっかけにして引きずり込むのだという。
子供を外に出さないための単なる昔話かと侮る者もいるが、霧が深い朝、路上の片方だけの靴を見てしまった人が怪異に巻き込まれた例は少なくない。
捨てられた靴と思って迂闊に触れると、異界の扉が開くかもしれない。
そしてプレラの方靴を手にした瞬間、あなたはもう一方の靴が存在するはずの“別の空間”に囚われるのだ。
気づけば耳元には、小さな笑い声がこだまするかもしれない。
【都市伝説】プレラの片靴
