「悪意オークション」は、開催日時も会場も一切告知されず、ただ特定のSNSにランダムで表示されるURLからのみ参加可能だという。
URLは数分から数十分で無効化されるため、多くの人は怪しんでためらっているうちにアクセス不能になるらしい。
実際に参加できた少数の証言によれば、出品される品目は「人間の中に潜む悪意」と呼ばれており、それを落札した者にどういうメリットがあるのかは不明だそうだ。
落札が成立した翌日から、出品者の身の回りで不可解な出来事が連鎖するらしい。
具体的には、長年付き合っていた恋人に突如別れを告げられたり、家族との絶縁トラブルが急激に起こったり、極めつけは不可解なSNS炎上が始まるなど、相手の人生をじわじわと壊すような事件が報告されている。
しかも、その出品者本人は自分が何を出したのか気づいていないことが多いらしく、あくまで「偶然の不運だ」としか捉えない場合もある。
一方、落札者と称するユーザーが本当に存在するのかどうかも曖昧で、何人かがスクリーンショットを撮ったと主張するものの、すぐに画像データが破損してしまう現象が多発している。
ある大学生は、オークション画面を録画しようと試みたが、デバイスがフリーズして再起不能に陥った。
まるで「悪意オークション」の存在自体が、誰かあるいは何かによって隠蔽されているかのようだ。
さらに、オークションには「次点落札者」という欄があり、そこに名前が載ってしまうと次の出品者候補になると噂されている。
いわば“自分の中の悪意”を誰かが競り落とし、勝手に相手の不幸を演出する一方、次点に選ばれた人物が次の出品者として輪に引き込まれる仕組みのようだ。
つまり、落札と出品を繰り返す螺旋構造が、際限なく広がる可能性を孕んでいる。
この話を最初に広めた高校生は、SNS上でくり返し警告の投稿をしたが、翌週にはアカウントごと削除されていた。
友人が彼に連絡を取ろうとしても電話も通じず、実家もすでに引き払われた形跡があるという。
周囲は「彼こそが“次点落札者”になってしまったのでは」と囁き合うが、真偽はわからない。
もしも深夜に謎のURLが届き、「悪意オークションへようこそ」という文言が表示されたら、軽い興味でアクセスしないほうがいいだろう。
実際、それを開いてしまった人は、翌日からどこかの誰かが競り落とした“悪意”に追い詰められるという。
しかも、何らかの拍子で自分が次の出品者になるかもしれないのだ。
果たして、このオークションは誰が運営し、何のために人々の悪意を売買するのか。
今のところ、それを解き明かした者は一人もいないらしい。