ピーマンが大嫌いな5歳の女の子がいて、彼女は毎晩寝る前に窓際で月に向かってお願いをしていた。
「どうか明日こそピーマンが食べられますように。好きになれますように」と、ささやく声で短く祈っていた。
ある朝、母親が作った朝食のピーマンを、一瞬の躊躇なく口に入れて気づく。
まるで昨日までの苦味が消え去り、すんなり食べられてしまったのだ。
嬉しそうに笑う女の子を見て、母親もよかったわねと穏やかに頷く。
しかし、その日の午後から様子がおかしくなった。
女の子が母親の顔を見ると、まるでそこがピーマンそのものに見えると言って泣き叫んだという。
父親が帰宅しても、彼女の瞳には緑色で縦に割れたピーマンの断面が、父の頭部に重なって見えるらしい。
最初は子どもの冗談かと思われたが、翌朝になると幼稚園の先生までピーマン顔に見え始め、女の子はパニックに陥ってしまう。
ピーマンが食べられるようになった代わりに、周囲の人々の顔が次々ピーマンに変わっていく——そんな恐ろしい光景を、彼女の祖母だけは察したらしく、「あの子、月に何か変な願いをしたのね」とつぶやいた。
昔からこの地域では、「好き嫌いを月に祈ると、食べ物は克服できるが、代わりに月が何かを奪う」という忌まわしい言い伝えがあったそうだ。
それは多くの場合、周囲の見え方が歪み始めるという代償だという。
女の子が夜中にふたたび窓辺へ行くと、三日月がわずかに笑っているかのように見えた。
その月光の下、ふいに彼女は恐る恐る声を上げる。
「ごめんなさい。もう食べられなくていいから。みんなの顔を元に戻して……」
だが月は何の返事もしない。
翌朝、台所に立つ母親も、新聞を読む父親も、やはりピーマン顔だった。
幼稚園に行けば、クラスの子どもたち全員の頭が緑のピーマンに見える。
それでも女の子だけが怯えているせいか、周囲はまったく気づかないまま、通常の会話を続けている。
結局、彼女は登園を嫌がり、部屋の隅で泣くだけだが、誰も真剣に取り合わない。
そしてついに数日後、夜半の月明かりの下、彼女自身が鏡をのぞいたとき、そこにもピーマンが映っていたらしい。
その瞬間、家の電気がすべて消え、彼女の叫び声が響いたというが、その後のことは誰も覚えていない。
朝になると、ただ静かにリビングの床に、ピーマンがひとつ転がっていたそうだ。
【都市伝説】ピーマンが怖い
