泣き声をなくす子守唄が、この街の深夜にだけ流れるという。
公園近くの廃スピーカーから、時刻は1時13分きっかりに音が漏れ始める。
その旋律はやけにゆったりしていて、子どもの鼻歌のように聴こえる。
だが、歌い手の声には人間味が感じられず、機械じみた無機質さがある。
ある主婦が好奇心で録音を試みたものの、翌朝SDカードが空白になっていた。
奇妙なのは、この歌が流れる地域では、赤ちゃんが何故か泣き止むこと。
同じ時間帯、どの家でも一瞬にして泣き声がピタリと止む。
若い夫婦の証言では、子どもが目を開けたままじっと天井を見つめていたという。
しかも目頭にうっすら涙の痕がありながら、声は一切出さない。
病院に連れて行っても問題なしと診断され、医師も首をかしげるばかり。
研究好きの大学生は、独自に周波数を分析しようと音響機材を準備した。
だが、いざ録音しようとした瞬間、スピーカーの音が途切れ、街が静寂に包まれた。
翌日、学生のパソコンは真っ暗になり、復旧不能のエラーメッセージを残して壊れた。
近頃、町内放送が突然止まったり、街路灯が消えたりと不可解な現象が連鎖している。
55歳の男性は子守唄を耳にした後、夢の中で見知らぬ子どもに謝り続けたという。
しかし起床すると、自分が何に対して謝罪していたのか、一切思い出せないそうだ。
ある噂では、この街自体が“泣き声”を求め、赤子から声を奪う代わりに平穏を与えている。
もし歌を最後まで聴ききれば、子どもの声は永遠に失われると囁かれている。
実際、隣家の赤ちゃんがまったく喋らなくなったという報告が2件あった。
区役所に問い合わせても、担当者は調査中と繰り返すだけで何も進展しない。
深夜1時13分、またあの子守唄がささやき始める。
赤ん坊が二度と泣かなくなる代償を、誰も大きな声では語りたがらない。
この旋律を止める方法を知る者はおらず、街はひそかな恐怖を抱えたまま眠りに落ちる。
【都市伝説】深夜に流れる「泣き声をなくす子守唄」
