すり潰しましたというタイトルのゲームソフトが いつから店頭に並んでいたのか誰も知らない
あるゲームショップの店員が 棚卸しの最中に一本だけ棚の奥に見つけたというが 仕入れ履歴が無くパッケージには値札も貼られていなかった
ソフトの説明書は薄い紙一枚で 「このゲームではあなたが何を壊し何を捨てるかを選ぶだけ」と書かれている
不審に思った店員が 動作確認をしようと中古ゲーム機に差し込んだところ 画面が異様に白いまま砂嵐のようにざらつき 軽快なBGMの代わりに湿った金属音が響いたという
その画面には 「あなたは何を望みますか すべてをすり潰しますか」とだけ表示され 操作ボタンを押しても 進まないのか進んでいるのか分からないままだったとされる
奇妙なのは それを見つけた店員が翌日 両手を包帯で巻き付けた状態で出勤してきたこと
本人いわく 夜中に突然指の関節が砕ける感覚がして 痛みで目が覚めたと言うのだが 医者の診断では骨に異常はないとされたらしい
その後 店員は数日間で退職し ゲームソフトも行方不明になった
ネット掲示板に 「すり潰しました」というソフト名だけが急に話題に上がった時期があったが なぜかログごと削除され 詳細が追えなくなっている
実際にプレイしたと名乗る人物は 「セーブもロードも無いゲームだった ボタンを押すたびに何かをすり潰す音が耳元で鳴り やがて画面が真っ黒になる」 とだけ書き残して消息を絶った
噂では このソフトを最後まで進めると 自身の存在をまるごと“すり潰す”のではないかとも言われるが 真偽は不明
ただ一つだけ分かっているのは それを手に取った人間の周りで 小さな破損事故や身体の痛みなど 不可解な“破砕”現象が頻発するということ
もしゲームショップの棚の奥に 埃をかぶった奇妙なパッケージを見つけても 好奇心で手に取らない方がいいのかもしれない
そこに書かれた言葉 「すり潰しました」 ―― それは 始まりであり終わりでもある合図なのだろうか