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【都市伝説】冥婚の逆

朧区には 一度だけ挙げられる特別な結婚式があるという

それは “冥婚の逆”と呼ばれているらしい

式には 生者同士が誓いを交わすのではなく 先に死んだ者の名だけが書かれた名簿が 参列者の前に差し出される

本来の冥婚は 故人同士の魂を結ぶ儀式とされるが この逆儀式では 存命の者が既に亡き相手と結ばれる体裁を取らず

むしろ 亡者の名を破り捨てる行為が行われるという

不思議なのは 式が終わってから 生者のほうが失踪するわけでもなく 普段通りの日常を続ける点だ

だが 当の参加者は皆 何かを置き忘れたような感覚に苛まれ 夜ごとに黒い影の夢を見始めるらしい

過去にこの式へ参列した親族によれば 儀式の最中 誰かの声で「戻らぬ縁を断ち切る」と囁かれたという

直後から 死者の写真は家中から消え失せ 遺品すら気づかぬうちに行方不明になっていた

噂によると この儀式を挙げた家系は 二度と墓参りに行かなくなるのだとか

理由を尋ねても 皆 「そんな人は最初からいなかったの」と 冷ややかに答えるだけだという

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