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2人の図書館司書の会話ー不自然に少ない戦時中の資料について

小雨はカウンターで本を整理しながら、遠くを見つめていた。視線の先には、郷土資料室で何やら熱心に資料を読み込んでいる瀬田の姿があった。いつものこととはいえ、一体何を探しているのだろう、と小雨は少し気になっていた。

小雨「瀬田さん、お疲れ様です。今日は何か面白い資料でも見つかりましたか?」

瀬田は顔を上げ、穏やかに微笑んだ。

瀬田「あぁ、小雨さん。今日は冥ヶ崎の歴史について調べているんです。特に、戦時中の軍需工場に関する資料を探しているのですが、なかなか見つからなくて…」

小雨「戦時中ですか…。そういえば、この町の図書館って、その頃の資料が少なすぎる気がしますよね。何か理由でもあるんでしょうか?」

瀬田は少し間を置いてから、静かに答えた。

瀬田「そうですね…もしかしたら、意図的に処分されたか、どこかに隠されているのかもしれません。冥ヶ崎には、表に出したくない過去があるのかもしれませんね…」

瀬田の言葉に、小雨は背筋がゾッとするのを感じた。この街には、何か得体の知れないものが潜んでいる。そんな漠然とした不安が、小雨の心に広がっていった。

小雨「そ、そういえば、この間来た利用者さんも、戦時中の地下壕について調べていましたよ。何か関係があるんでしょうか…?」

瀬田の目が一瞬鋭く光った。

瀬田「地下壕ですか…。興味深いですね。もし何か新しい情報があれば、教えていただけると嬉しいです」

小雨は瀬田の熱心さに圧倒されながらも、どこか不穏な空気を感じ取っていた。話題を変えるように、小雨は近くの書架を指差した。

小雨「あ、そういえば、このコーナーに新しいミステリー小説が入ったんですよ。瀬田さん、ミステリーはお好きですか?」

瀬田はいつもの穏やかな笑顔に戻り、

瀬田「ええ、好きですよ。最近は、地元を舞台にしたミステリー小説が増えてきましたね。フィクションとはいえ、冥ヶ崎の怪しい噂や都市伝説が題材になっていると、少しゾッとしてしまいます」

小雨「あはは、そうですね。でも、所詮は作り話ですから。あまり深く考えすぎない方がいいですよ」

小雨はそう言いながら、内心では瀬田の言葉が引っかかっていた。フィクションと現実の境界線があいまいな街。それが冥ヶ崎なのかもしれない。

瀬田は郷土資料室に戻り、再び資料の山に埋もれていった。小雨はカウンター越しにその様子を眺めながら、どこか遠い世界に行ってしまったような、不思議な寂しさを感じていた。

ふと窓の外を見ると、濃い霧が街全体を包み込み始めていた。小雨は思わず身震いし、早く家に帰ろう、と心に決めた。

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