これは、私が小学生から中学生に掛けて体験した話です。
小学6年生のある日、母が家の前でママ友といつものように長話をしていました。
何でもかんでも気になる年頃だった私は、2階の窓からこっそりとその様子を覗いていました。
「──────お肉なら、そっちのスーパーより、あっちの方が……」
「いやでも、そっちはパンの品揃えが……」
と、何の変哲もない主婦の会話をぼうっと聞いていました。
その時です。
今まで影になって見えていなかった、ママ友の傍にいる半袖半パンの小学校低学年程度の男の子に気付きました。
その男の子はじっと私の母の顔を見つめていました。
私はそのママ友のことをよく知らず、私と同い年の女の子がいることしか知らなかったので、あ、あそこの家って弟いたんだ。とその時は思いました。
季節は冬でしたが、このくらいの年の男の子なら有り得る服装だと、特に気にも留めませんでした。
やがて話が終わり、家に入ってきた母に、尋ねました。
「あそこの家って弟いたんだね。」
「え?何の話?」
「ほら、さっきまで話してた○○さんとこの。」
「は?○○さんの所は一人っ子よ?」
「え?でもだって、さっき一緒にいたじゃん」
「アンタ何言ってんの?さっきって何?私と○○さんしかいなかったわよ。」
「え、いや、でも……」
「寝ぼけてたんじゃない?」と話を切り上げられ、釈然としないままその話はそこで終わってしまいました。
事態が一変したのは、それから一週間後でした。母が倒れて救急車に搬送されたのです。くも膜下出血という脳の病気でした。奇跡的に一命を取り留めたのですが、あと五分遅かったら間に合わなかったそうです。
次は、あの男の子のこともすっかり忘れた中学1年生の時です。
当時高校でハンドボール部に所属していた姉の試合を見に行っていました。午前の試合も終わり、差し入れでも持って行こうかと姉を探していました。ふと、少し遠くの方で男の子を脚に引っ付けて歩いている姉を見つけたのです。「迷子か知り合いの子かな?」と思って声を掛けようとしたのですが、人混みに紛れて見失ってしまいました。その後すぐに合流して、聞いてみました。
「迷子の子本部に連れて行ってたの?」
「は?」
「え、『は?』じゃなくて。さっき男の子脚に引っ付けて歩いてたじゃん。声掛けようと思ったけど、すぐ見失っちゃったから……」
「……?男の子って何。本部なら行ったけど、友達迎えに行っただけだよ。」
「え!そんな訳ないって!私ちゃんと見たもん……!ほら、半袖半パン……の」
その時、小学校6年生の時のことを思い出しました。
半袖半パンで前髪が目に掛かった男の子。ボロボロの靴を履いて──────
姉の脚に引っ付いていた男の子と同じ容姿でした。
「見間違えたんじゃない?」とその話は区切られてしまいましたが、私はそれからずっと胸に嫌な引っ掛かりが残りました。
それから5日後のことです。
姉は、練習中に靱帯を断裂して入院しました。右脚、あの男の子が引っ付いていた方の脚です。
母のこともあり、とても偶然だとは思えなくて「オーバーワークだったかなぁ」と病室のベッドで笑う姉に、上手く笑い返すことができませんでした。
最後は、中学3年生の時です。
夏休み明け、同じクラスの友人と教室で他愛もない話をしていた時でした。
そういえば、と友人は私に話し出しました。
「そういえばさ、アンタって弟いたんだね。」
「……え、何で?」
「この前、めっちゃ仲良さそうにコンビニ入っていくの見たんだよね。服の裾掴んで、ずうっとアンタの顔見上げて。」
「…………それって、どんな格好してた?」
「はぁ?」と意味不明とでも言うように見つめてくる友人にもう一度聞くと、戸惑い気味に答えました。
「えぇ……どんな?えっと、確か……半袖半パンの……ちょっと前髪長いよね?小学1,2年生くらい?」
頭が真っ白になりました。
あの男の子でした。
私は三姉妹の末っ子なんです。弟なんているはずがありません。確かに、その日私はコンビニに行きました。でも、私一人で行ったんです。男の子なんて、いるはずない。
母と姉に続いて、
次は──────私?
途端に怯え出した私に「どうしたの?大丈夫?」と友人が心配してくれましたが、どうにか曖昧に返して席に着きました。でも、気が気ではありませんでした。
それから、3日後でした。
駅で発車しそうな電車に乗ろうと慌てて階段を駆け上がっていました。あともう少しでホームだ、というところで。
くいっと後ろから裾を引かれたんです。
反射的に振り返った私は見てしまったんです。
半袖半パンの男の子が、私の裾を引っ張って、にぃっと笑っているのを。
次の瞬間、私はバランスを崩して階段から落ち、意識を失いました。
気が付くと病院でした。あの場に居合わせた人が救急車を呼んでくれたそうです。
診断は、腰椎の圧迫骨折でした。あともう少し遅れていたら下半身不随だったらしいです。
それ以降、私はあの男の子を見ていません。
でも、またあの男の子が現れるんじゃないかと思うと、怖くて仕方がありません。
今でも脳裏に焼き付いています。
あの時の、悪意に満ちた、不気味な笑みが。
提供:さささ 様
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