見覚えのある霊

旧サイトより再掲
2024年5月22日 / 人怖 短編

私には生まれつき、少しばかりの霊感がある。

当時住んでいた場所は、かつて火葬場があったという。

だから、怖い思いをすることには慣れていた。

見えるわけではないが、反応してしまうと余計に恐ろしい目に遭う。

そういうことが度々あったので、私はいつしか、そんな怪奇現象を「気のせいだ」と思うことにしていたのだ。

18歳の夏、私はとあるブラック企業で、仕事に没頭する日々を送っていた。

毎日のように仕事を家に持ち帰り、気まぐれに現れる上司からは無茶な要求を突きつけられる。

問題は全て私に丸投げされ、バイトの子の教育や管理まで任されていた。

そのうえ、当日欠勤が多いので穴埋めもしなければならない。

休みなど、あってないようなものだった。

日に日に、疲れは蓄積していく。

気づけば、摂食障害と不眠症を患っていた。

自分を責めるようになり、「死にたい」という思いが日増しに強くなっていく。

そんなある日の夢に、一人の女性が現れた。

真っ白な空間の中に、ぽつんと佇んでいる。

こちらを睨みつけているようだが、顔ははっきりとは見えない。

ただ、激しく怒っているのは分かった。

「なんで怒っているの?」と尋ねても、女性は答えない。

ただ、じわじわとこちらに近づいてくるだけだ。

私の体は動かない。

女性の顔がどんどん近くなり、ついに目の前で止まった。そして何かを言った。

「…ねばいい…」

その時、目が覚めた。

不思議なことに、怖くはなかった。

しかし、その日を境に、誰かに見られているような感覚や、圧迫感、不安感が増していった。

「気のせいだ、気のせいだ」と自分に言い聞かせながら、仕事をする日々。

「死にたい、死にたい。でも、辞めたらみんなに迷惑がかかる。死んだら楽になれるのかな」

そんな考えが頭の中をぐるぐると回る時間が、日に日に長くなっていく。

そんなある日、みるみるうちに衰弱していく私を見て、友人が心配してくれた。

そして、友人の家にお泊まりすることになった。

ひとしきり仕事の辛さを聞いてもらった後、疲れ切った私は眠りについた。

友人と二人でベッドを使って眠る。なんだか、安心する気持ちになった。

日差しが差し込み、いつもより早く目が覚めた。

「もう少し寝ようかな〜」なんて思った、その時だった。

突然、体が動かなくなったのだ。

冷や汗が吹き出し、鳥肌が立つ。

止まらない。

友達の方を向いて寝ていたので、なんとか起こそうと声を出す。

「う…あ…..」

声にならない。

まともに話せない。

今まで経験した金縛りとは明らかに違う。

何かがおかしい。

日の光さえも、恐怖に感じる。

「何かが来る!」そう思った次の瞬間、友達の向こう側から手が伸びてきた。

頭が見える。

あの女性だ。

非常にゆっくりと動きながら、ついに私に触れる。

引っ張られる感覚。

「行きたくない、私は行きたくない」

そう心の中で何度も繰り返した。

ふいに、固まっていた体が、ふわりと軽くなる。

「動ける!」

そう思い、振り払おうと腕を動かし、体を起こした。

女性の姿は消えていた。

だが、震えが止まらない。

「なんで?どこで連れてきたの?」

心当たりはない。

あの女性は、一体何がしたかったのか。

ふとあることに気がついた。

あの女性、私と髪型が似ている。

背丈も同じくらいだ。

あのワンピースも、どこかで見覚えがある。まるで……

「…..私?」

その瞬間、視線と圧迫感が消え失せた。

後日、以前から約束していた霊能者の方に会った。

夢の中で女性に襲われたことを、ざっくりと伝える。

毎日「死にたい」と思っていたことは、親の前で話せなかったので伏せておいた。

霊能者の方は霊視をした後、ポツリと呟いた。

「今は大丈夫みたいだね。うーん…自分で自分を呪っていたんだね」

私は毎日「死にたい」と思う一方で、「死ねばいいのに」とも願っていた。

無意識のうちに生き霊を飛ばすなんてこともあると聞く。

本人が気づくと消えるのだとか。私が私自身だと認識したことで、霊は消えたのだろうか。

「死ねばいい」なんて、もう考えまいと心に誓った。

仕事は辞め、体調は順調に回復し、前向きな気持ちになってきている。

それでも、たまに疲れた時には思い出す。

もしあの日、抵抗しなかったら。

一体、何が起こっていただろうか。

怖い 2

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